西日の町

西日の町

西日の町

僕と母の暮らすアパートに、ある日突然転がり込んできた母の父「てこじい」。そのまま居座ってしまったてこじいですが、夜になっても決して横になって眠ることなく、部屋のすみでじっとうずくまったままです。そんなてこじいを邪険に扱ったり、そうかと思えばやさしくしてみたりと、戸惑いを見せる母。そんな母の姿を見つめる10歳の「僕」は…。

このお話の舞台は、なんだかとても昔みたいです。貧しかった子供のころの自分。大人になった「僕」の話が物語の中にたびたび出てくるのですが、その過去と現在のいったりきたりが、時代の移ろいを感じさせました。

お母さんの、突然現れた「父親」に対する態度、なんだかわかるなぁと思ってしまいました。やさしかったり、残酷だったり、あぁ、家族ってそういうものだ、と。子供のころはお父さんが大好きで、お父さんにとっても自慢の娘で、でも、もう今は大きくなってしまって、いつまでも昔のままではいられない。何かが少しずつ変わっていく。憎んだこともきっとあって、それでもやっぱり家族で。そんなことが、ぶわーっと伝わってきて、なんだか切なかったです。

いままでに読んできた湯本さんの本とはちょっと感じが違いました。苦手な感じすらしてしまい、大好きな作家さんなのに悲しいなぁと思ってよく見たら「芥川賞候補作」と。…やっぱり!(どうしても苦手みたいです。芥川賞。どうしてだろう!)苦手だったけど、でも、自分が親になってから、もう一度読んでみたいと思いました。