失はれる物語

失はれる物語

失はれる物語

過去に「ライトノベル」として出版された短編小説に、書き下ろし一つを加えた、六つの短編からなる短編集です。

この物語の中で、繰り返して語られる寂しさのようなもの。疎外感、違和感、喪失感、そして絶対的な孤独。他者からみたら「甘え」とか「被害妄想」とか「自意識過剰」と思われてしまうような感情。でも、当人にとってはとてつもなく重い、そんな感情。苦しいなぁ…。読んでいて、とても苦しかったです。自分が結局「他者」であることも含めて、苦しかったです。まさに「切なさ全開」。でも、そのままでもいいと思うんだけどなぁ…。そういう自分を許してあげれば楽になるのになぁ…悪いことじゃないし、とか、テーマと違うことを思ったりもしちゃいました。(だいなし?)

とにかく全編、心が痛い(そして、物理的に体も痛い)お話たちでした。

乙一さんのすごいところは「物語の発想力」だと思います。とにかく、着想がすごい。ただ、その「物語」を「書ききれているか」というと、あとちょっと…という感じがしてしまうのです。(えらそうにすいません…。)「この人は苦しんでいるんだな」「つらいんだな」というのは読んでいてわかります、でも「解る」けれど伝わってこないというか。頭で理解はできるけれど、感覚に訴えてくる部分がないというか、実感できないというか。(ほんとすいません。)まぁ読者を一歩物語の外に置くために、あえてそういう風に書いているのかなぁとも思ったり。(ライトノベル特有のあの「挿絵」がないからかも、とも思ったり。あぁ、それ私の場合は絶対ある…。そういう意味では元のライトノベルの方も読みたいかも。)でもこれから先が楽しみです。きっとどんどんうまくなると思います。期待してます…ってあれ?これもしかして初期の短編集ですか?新作を読まねば!

ちなみに、一番好きだったのは「しあわせは子猫のカタチ」です。白い子ネコ…かわいい…。でも「殺人」のエピソード、あれは…必要?そこが若干中途半端かなと。でもこの人の頭の中には壮大な物語が詰まっていて、それを作品でちょろっと見せてくれていて、そうするとこんな風な見え方になっちゃうのかもしれないなぁ、と好意的に解釈。いや、全部書いてくれて全然いいんですけどね。

一番印象に残ったのはタイトルにもなっている「失はれる物語」。私だったら…想像したくないです。ぶるぶる。止め。このタイトルが「失はれた」じゃなくて「失はれる」と現在形であるところがすでに怖いです。

そして「マリアの指」。血から湯気!?ひぇぇぇ…。この作品だけ他の短編とはちょっと異色な感じでした。ちょっとミステリー…?でも一番のミステリーはお姉さんの持っていた「しゃもじ」が何故か途中で「おたま」に変わっていたこと…。

そして、装幀が凝った本でもあります。装幀も、本の中表紙も、全体も含めてすごい凝ってます。気合いが感じられました。あの楽譜は…何の曲でしょう。ほんとに弾けるのかな??