停電の夜に

停電の夜に (新潮クレスト・ブックス)

停電の夜に (新潮クレスト・ブックス)

大きな事件が起こるわけでもなく、トラマチックな展開があるわけでもなく、ただしんしんと、静かに、人の営みが語られる、そんな短編集です。必ずしも後味のよい終わり方ばかりではないですが、そのほろ苦さも含め、ゆったり味わえる物語たちでした。一気に読むのではなく、大切にじっくりと読みました。

人が人といっしょに過ごすときに、避けては通れない暗さ。普段は見ないようにしているのに、でもふとした瞬間にそこに開いている落とし穴みたいな感情。そして、理屈ではなく人が人を思う気持ち。祈り。清濁併せ持つ、そういう心の機微みたいなものが、ものすごくリアルで、こういうのを言葉で表現するのってすごく大変なんじゃないかなぁと思うのですが、それこそがまさにこの小説の世界なのです。すごいなぁ…。

作者さんがインド系のアメリカ人ということもあるのでしょうが、作品の中にインドがやたらと出てきます。そして「遠くを思う」という気持ちが全編に流れているように感じました。地理的な距離も、心の距離も、遠くを思う気持ち。島国育ちの自分にはわからないいろんな感情があるのかなぁと思ってみたりしました。

ちなみに、私はインドにまったくなじみがないので、食べ物の記述がおいしそうなのかなんなのかよくわからなかったのがちょっと残念でした。でもこの本の装幀は好き…。そして英語が読めるものならば原文で読んでみたかったです。