ささらさや

ささらさや

ささらさや

突然の交通事故で死んでしまった「俺」。あとに残され、二人ぼっちになってしまった妻・サヤと、まだ赤ちゃんのユウ坊。世界中で、二人を守れるのは自分だけ、二人の味方になってやれるのは自分だけ。死んでしまったけれど意識はある…幽霊になってしまった彼は、二人に何か困ったことが起こる度、誰かの体を借りて二人を助けにあらわれますが…。

この物語はこれだけ「泣かせる」設定なのに、あえて泣かせに走らず、暗くもならず、むしろほんわか温かく描かれています。いや、そこがむしろ泣けたりもするのですが…。やわらかな雰囲気の挿画もステキです。

何しろ人がよくて、押しの弱いサヤ。読んでいてあまりに頼りない彼女にもどかしさを感じることもありました。でもそんな彼女を、私の代わりに「俺」が「馬鹿っサヤ!」と叱りつけてくれました。二人はステキな夫婦だったんだなぁ…。こんなに愛のこもった優しい「馬鹿」は、なかなか聞けるものではありません。

そして、新しく出会ったステキな人々に支えられ、少しずつでも成長していくサヤ。そんなサヤをずっと見守っていた彼も、やがて気づきます。自分がいなくても、サヤを助けてくれる人たちが、もうたくさんいるということに…。

この物語は連作短編になっていて、一番最初の「トランジット・パッセンジャー」と最後の「トワイライト・メッセンジャー」の二つが「俺」の視点から描かれているのですが、この二章がもう切なくて切なくて…胸が痛かったです。

最初から死んでしまっているのだから、こうなることはわかっていたのに、やっぱり最後には胸がつぶれるような思いでした。でも思ったような愁嘆場がなくてよかった…。いなくなる前に、最後にサヤと自分にステキなプレゼントを残していった彼。それを受け取ったサヤは、泣いて泣いて、でもきっと笑顔を見せたと思います。

唯一残念だったのは「喫茶店のマスター」。彼…このエピソード要りますか?!なんか唐突すぎたというか。郵便配達くんの方がまだ…。

ちなみに私が読んだのはハードカバーの単行本ですが、読み終わってからもう一度表紙を見て、そして裏表紙を見て、泣きました。