私が語りはじめた彼は

私が語りはじめた彼は

私が語りはじめた彼は

何の予備知識もなく読み始め、一つめのお話がすぐ終わったので、短編集なのかぁ、と思っていたら、ひとつひとつがちゃんとつながっていって、全体でひとつの物語でした。「村川」という大学教授をめぐる人々の物語です。

この構成、ありがちですが、ここではぴったりはまっていて、感心してしまいました。短編ごとに主人公となる語り部が変わるのですが、その書き分けがすごいのです。一人の作家さんが書いていると、どことなくどの登場人物も似たような感じになってしまっていることが多い気がするのですが、三浦さんの書く登場人物は、それぞれのキャラがちゃんと立っているというか。短編ごとにがらっと雰囲気が変わるのです。性別も年齢も性格も設定も違う登場人物たち。こんなにいろんな人を書けるのか!とびっくりしました。すごいなぁ。

作中にも出てくるセリフですが、「事実はひとつだけだけれど、真実は人の数だけある」ということを物語りにすると、まさにこうなるのだなぁというお話です。同じ「彼」を語ってこうも違うのか…と。

そして全体の軸になっている「村川」本人は何も語りません。そこがまた、うまいなぁと思いました。そうか、だからこういうタイトルなんですね。納得。

愛とか恋とか、勝ちとか負けとか、幸せとか不幸せとか、そういうことをちょっと深く考えさせられました。「村川」は、ほんとうに幸せだったのかなぁ…。