アヒルと鴨のコインロッカー

アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)

アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)

引っ越したばかりのアパートの隣人、河崎の口車にのせられ、書店強盗につきあうはめになった大学生、椎名。気が付けば河崎に言われたとおりに、書店の裏口にモデルガンを持って立っている自分。そしてそんなことまでして河崎が盗もうとしているのは「広辞苑」一冊だという。彼の真意はいったい…?

交互に描かれる「現在」と「ニ年前」の物語。最初は「ずいぶん陽気な明るい感じだなぁ〜。」なんてのんきに思いながら読んでいたのですが、刻々と進んでいく現在とニ年前の「時」に、タイムリミットが近づいているような焦燥感を味わいながら、途中で読み止めることができず、一気に読みました。そして泣きました。今思い出しても、思い出し泣きしそうです。

あのエピソードも、あのセリフも、あのしぐさも、あぁ、そうだったんだ!と最後に思わせる。それを思い返すだけで、涙が出る。なんと言っていいのかわかりません。切ない、というのとはまたちょっと違う…、でも涙、涙です。この人の書く物語は、もう「ミステリー」とかそういうくくりをしなくていいのだと思います。そういうことを考えないで、ただ、そのまま読んでほしいと思います。ほんとに、もう、みごと、でした。