その名にちなんで

その名にちなんで (新潮クレスト・ブックス)

その名にちなんで (新潮クレスト・ブックス)

インドからアメリカに移り住んだ夫婦。生まれた子供に彼らがつけた名前は「ゴーゴリ」。父にとって運命的な意味を持つ本の作者にちなんで、思いをこめてつけられたその名前ですが、成長するにしたがって彼は、その名について思い悩むようになり…。

静かに淡々と語られる、壮大な、でも普遍的な、家族の物語です。物語の語り部が、夫婦からその子供たちに受け継がれていく。その語り口はずっと現在形で、長い長い短編を読んでいるような気分になりました。あまりにも長い時間の流れる物語でした。静かだけれど、重い、その重さに圧倒されました。

新しく生まれる命、そして消えていく命。成長していく「ゴーゴリ」の、家族に対する複雑な思いや、自分自身というものについての悩みが、国は違えど同じだなぁと、しんみり思いました。同じなだけに時に歯がゆく、時に心に痛かったです。

読み始めたときは、「またアメリカに住むインドの人の話か…。作家さん自身がそうなんだって言うけど、だからって毎回同じ設定っていうのも…。」とか思っていたのですが、でもやはりその設定・視点から語られるからこそ、彼女の書く物語の世界はこんな風にしんと静まり返った、深い世界になるのかなぁとも思いました。移民として、異分子であることを常に意識して、生きなければならない人々。それゆえの不安や困惑や、そういう感情を味わったことは私はないけれど、そういう「哀しみ」みたいのがこの物語の根底を常に流れているのだと思います。

クレヨン王国黒の銀行

クレヨン王国黒の銀行 (講談社青い鳥文庫)

クレヨン王国黒の銀行 (講談社青い鳥文庫)

中学一年生の女の子美穂は、山奥に一人暮らしているおじいちゃんの家へ遊びに行きます。ふもとの町の銀行員、彰子の愛車で山へ向かった美穂ですが、山道の途中で助けた男女の二人連れはなんと銀行強盗!車をのっとられ、途方にくれながらとぼとぼ歩いていた二人は、雨宿りしていた洞窟でクレヨン王国黒の銀行のキャッシュカードを拾います。黒いものならなんでもあずけたり引き出したりできるこの銀行。美穂と彰子の考えた強盗撃退の方法とは…。

ダムの建設予定地になってしまった山を、大事な自然を水の底に沈めてしまうことなんてできない!と、守ろうとがんばっているおじいちゃん。そんなおじいちゃんを大好きな美穂や彰子。みんなの気持ちが呼び起こす奇跡が、私をとても幸せにしてくれました。

強盗だって、やっつけるのではなくいい人にしてしまう、福永さんらしいやさしい物語。あ!っとおどろくストーリー展開。そしてすてきなエンディング。いい!

「黒」と聞くとそれこそ暗い、悪いイメージを思い浮かべがちな私でしたが、そんなイメージも吹き飛ばしてくれる!ステキな黒の銀行でした。

トリツカレ男

トリツカレ男

トリツカレ男

ひとたび何かにとりつかれると、もう他のことには一切気が向かなくなってしまう「トリツカレ男」ジュゼッペ。オペラに三段跳びに探偵ごっこ。彼がとりつかれたものは数知れず。そんな彼が一人の少女ペチカと出会ったとき…。

もう大好きです!この物語!!最初の一行から最後の一行まで、大好きです。

ジュゼッペも最高、彼のまわりのみんなも最高、そしてハツカネズミも最高!ステキです!みんな大好き!そんなに厚い本ではないので、すぐに読めます。最後は泣けて、そしてとても幸せな気持ちになれます。心があったかくなります。うーん、大好き!

ゆけゆけジュゼッペどこまでも!!

ひかりのメリーゴーラウンド

ひかりのメリーゴーラウンド (よりみちパン!セ)

ひかりのメリーゴーラウンド (よりみちパン!セ)

十五歳、中学三年生のまゆ。「気孔」の不思議な力を使って治療院をしている祖母の手伝いをしながら暮らす彼女の過ごした一年間の物語です。

初・田口ランディさんでした。先に「コンセント」とかもっとメジャーなのを読むべきだったかな…。

この物語はなんと言うのでしょう。「折原みとよしもとばなな」のような…?まゆは等身大の十五歳のような、こんな十五歳ありえないような。うーん。ふりがなの振りっぷりとかを見る限り、若者むけ(?)だと思うのですが、どうなのかなぁ。

おばあちゃんが「人を治せる」不思議な力を持っていて、まゆもちょっと人とは違った力があって。十五歳なりの恋とか性とかの悩みだったり、生きること、生きていることについての悩みだったり。そういうまゆの成長が描かれている…のだと思うのですが、いまいち心に響かず。これを読んで泣く人もいるのかもしれませんが、わたしは「よしもとばななチックだな」と思った時点でもっと深いところを期待してしまったので、ダメでした。それとも…わたしがもう若者でないから?!

グッドラックららばい

グッドラックららばい

グッドラックららばい

「ちょっと家を空けます。でも心配しないで〜。」という軽い調子で家出して20年も帰らない母、その妻の家出を「ウフッ」と笑って娘たちに伝える父、それを聞かされてても「そっかぁ」という程度にしか受け取らない姉。

この物語の登場人物たちは、みな相当変わっています。ツワモノぞろいです。母の家出に対して泣いたり怒ったり、唯一「正常な」反応を示す妹も、ものすごいリアリストというかなんというか、「こういう反応しないくっっちゃ」と思ってやっているくらいで、どこか変わっているのです。そんな親子三代にわたる壮大、かつ壮絶な家族史でした。

なんというかもう…圧倒されてしまいます(笑)。ヘンな人たちなのかもしれないけど、でもどこにでもいるような人たち。この家族のみならず周りの人々もカワリモノぞろいで、そりゃもう大騒ぎです。

わたしの人生、まだ、何かある。やったことはないけど、これからやれること。まだ出会ってないけど、これから出会う人。まだまだ、いっぱい、ある。

このセリフを言うのが十代の若者ではなく、五十二歳のお母さんなんですから、もう大変です。すごいです。

人生にゴールはありませんね!!ほんとうに!

ぼくのミステリな日常

chiekoa2005-06-02

社内報の編集をまかされた若竹七海。「小説をのせろ」という難題を与えられた彼女は、大学時代に小説を書いていた先輩に連絡を取ります。彼が紹介してくれたのは「匿名氏」。身分、名前はいっさい明かさないことを条件に、彼が毎月書きつづけた短編小説は「ぼく」の身の回りに起こる不思議な出来事たち。そして1年が過ぎ…。

若竹七海さんのデビュー作だそうです。最初から自分がいきなり登場人物ってすごいなぁ。この物語は、その「社内報」の目次部分と小説部分が1年分掲載されている、というおもしろい構成になっています。

ミステリィ短編の新しい形だわ」とか思ってそれぞれの短編を読んでいたのですが…、最後にあっ!という仕掛けになっていました。それぞれの短編がそれだけで立派にミステリィとして成り立っているのに、さらに全体で一つのミステリィになっているのです。えー!と思って、おぉ!と思って、さらにえぇぇぇ!という感じ…。

しかし、後味が…「えぇぇぇぇ!」のままなんですけど(笑)。背筋、ぞくり、です。

宇宙でいちばんあかるい屋根

宇宙でいちばんあかるい屋根

宇宙でいちばんあかるい屋根

つばめは十四歳の女の子。ある日通っている書道塾のビルの屋上で、おかしなおばあさんと出会います。口が悪くて意地悪なそのおばあさん「星ばあ」と、つばめの過ごした春と夏の物語です。

読み始めて最初のうちは、この「星ばあ」があまりにもズケズケとモノを言う(それはもう腹立たしいほどに!)のにおろおろしてしまい、なんだ!この人は!と思っていたのですが、不思議なことにだんだんとこのヘンなおばあさんを好きになり、しまいにはなんと大好きになっていました。そして最後は…泣きました。終わりが近づいて、残りのページが少なくなってきても「泣かないだろうなぁ」と思っていたのですが、最後の最後でやられました。

「知らないもんはないことだと決めつける、そんな狭い心を無知っていうんだ」

「星ばあ」に教わったことが、たくさんあります。彼女に出会えてよかったです。つばめも、私も!