神様がくれた指

神様がくれた指

神様がくれた指

スリで逮捕され、出所してきたばかりの辻牧夫。電車の中で少年少女らのスリグループの犯行を目撃した彼は、彼らを捕まえようとしますが逃げられてしまい、逆にひどい怪我をさせられてしまいます。怪我のせいで意識朦朧としていた辻を助けたのは、占い師の昼間薫。警察も病院もいやだという辻を、昼間が自分の家まで連れてきたことから、彼らの奇妙な共同生活がはじまります。スリグループをつかまえようとする辻、一人の占い客に妙に心ひかれる昼間。出会うはずのなかったはずの二人が出会ったことで、事件は思わぬ展開をみせ…。

どんどん展開するストーリー、そして事件。先が気になって気になってどきどきして、結構読み応えのある分量でしたが、一気に読みました。おもしろおかしいようで、シリアス。軽妙なようで、それだけでない。読み終わって心にずっしりきました。人が生きていく姿…。

私は、基本的に「犯罪を犯す人」について、どうしてそんなことをしちゃうんだろう、なんでそんなふうに育っちゃったんだろう、わかんないなぁ…と単純に思っていたクチなのですが、この本を読んで、なんだかいろいろ考えてしまいました。わかったなんていうのはおこがましいけれど、生まれとか、育ちとか、本人には選べなかった何か。ただ単に「本人が悪い」とか「甘えてる」とかでは済まない何か。そういうものが哀しくて、心に重かったです。

ちょっとだけ納得がいかないのは登場する「女性」二人かな…。咲と永井の、どちらにもいらいらさせられました(笑)。男の人が書く「女性」にいらいらさせられることは多々あるのですが、女性の方が書く「女性」にもいらいらすることがあるんだなぁと。あなたたち、もうちょっとしっかりしなさい!

でも、そう思ってしまうくらい、「人」がしっかり書き込まれているということで、佐藤さんはさすがだと思いました。どの登場人物にも思い入れができてしまうのです。「敵役」すら憎みきれないんですから困っちゃいます。

そんなわけでこのラストは、納得がいくような、いかないような…。だって彼が〜。いや、でも、うーん…。もやもや。
とりあえず、明日からカバンをしっかり持って電車に乗ることを心がけます(笑)

恋するたなだ君

恋するたなだ君

恋するたなだ君

たなだ君、二十九歳。ある日ドライブに出た彼は道に迷い、見知らぬ街に迷い込みます。そして車の中から見かけた歩道を歩いていた女性の後姿に、一目ぼれ。恋に落ちた彼がとった行動、そして巻き込まれた大騒動は…?!

ものすごいアクセル全開のラブストーリーでした!予測不能。こういうのもアリなんですね。すごい。もはやファンダジーです。(最後にはあんな彼まで!おどろきました。)

出てくる人はなんだかトンチンカンでめちゃくちゃだし、主人公はどこかすっとぼけてるし、何がなんだか、わけわからないのですが、とにかく圧倒的。はちゃめちゃだけど愛すべき人々…そしてたなだ君。いい!最高です!

たなだ君の乗っている車もよいです。「パオ」。以前、車を買うとき「パオ」にするか「Be-1」にするか悩んだんですよね…。結局そのときは「Be-1」にしましたが、これを読んで「パオ」にしておけばよかった!とちょっと思ってしまいました。

「僕はあなたに何もあげられない。僕といたって得になることはひとつもありません。でも僕はあなたに、これまでとはまるっきり違う人生をあげることができます。そこには黄金の布袋様もないし、博物館もない。綿菓子喫茶も怪獣と闘うおじいさんもいません。だけど、もし、あなたが僕と一緒にいてくれるなら、僕たちはそれを作り出すことができるかもしれない。布袋様よりもっと輝いていて、綿菓子よりもっとおいしくて、博物館よりもっと楽しい何かを。僕があなたを愛して、あなたが僕を愛したら、それはできるんです、多分」

このあたりでやられました。「恋するたなだ君」転じて「たなだ君に恋する」…きゅーん!

こんな恋に私も落ちてみたい…にえ!(いや、大変?!)


【追記】この本は図書館で借りるのではなく、買いましょう!なぜならば表紙のカバーをはずすしてみると、そこがまたステキだからです。

泳ぐのに、安全でも適切でもありません

泳ぐのに、安全でも適切でもありません

泳ぐのに、安全でも適切でもありません

たくさんの女性の恋を描いた、短編集です。

これぞ「短編」まさに「短編」。しかし短すぎやしませんか?!

この人の書くものは、なんというかとても感想が書きにくいです。水を飲むみたいに、読んで、読み終わって、ほぉって思って、それで終わりというか。(寝て起きたらどんなこと書いてあったのかあんまり覚えてないし…。)でもキライじゃないのです。わけわからない!とか、それで?とか、ここで終わり?とか思いながら、なんだかんだ言って結構読んでいるのです。不思議です。

とにかくタイトルが秀逸だと思いました。これだけでつかみはオッケーというか、勝ち負けでいうと勝ちというか。たくさんの短編が収録されていますが、このタイトルの短編がいちばん印象に残ってます。ダメ男といっしょに住んでいる主人公。

今度こそ別れてやる、追い出してやる、別れてやる、追い出してやる。
何かを恐れているより、恐れていることが起きてしまう方が、少なくとも安全な状態ではないか。

まただ。
まただまただまただ。私は自分を呪った。ばかみたいだ。何度同じことをされたらあきらめがつくのだろう。

この「繰り返し」…。深く、深ーく、考えさせられる、彼女の心の叫びでした…。

うさぎとトランペット

うさぎとトランペット

うさぎとトランペット

前作「楽隊のうさぎ」の続編ですが、前回の主人公だった中学生たちは、ここでは中学を卒業し、脇役として登場します。

今回の主人公は小学五年生の宇佐子です。クラスメイトのちょっと変わった女の子と親しくなった宇佐子。クラリネットを練習している彼女につられて、市民吹奏楽団「ピンクバナナ」に出入りするようになった宇佐子は自分もトランペットを吹くようになり…というストーリーです。

前回と違い、「中学校の吹奏楽部」がメインでなくなったので、そこに関しては熱くならず、落ち着いて読めました(笑)。

でも…やっぱりなんだかちょっと物足りなかったです。子供が音楽と出会ってそして変わっていく。それが描きたいのはわかるのですが、それにしては音楽がいまいち魅力的に書かれていないなぁと。これなら音楽じゃなくったっていいじゃないか、サッカーでも刺繍でも、と思ってしまったのです。前作に登場した彼らのその後も、このエピソードはいるのやらいらないのやら。

思い入れが強すぎる素材っていうのは、読みづらいのかもしれないなぁ…。

なお、全然本題とは関係ないですが、個人的に宇佐子のお父さんがとてもお気に入りでした。このお父さんはいいなぁ。

楽隊のうさぎ

楽隊のうさぎ

楽隊のうさぎ

中学生になったばかりの克久が、入部したのは吹奏楽部。担当パートはパーカッション。引っ込み思案で、心に「左官屋」を住み着かせ、いつも心を塗り固めていた克久が、吹奏楽部で成長していく姿を描く…?

うーん、なんというか、私にはダメでした。すいません。吹奏楽部のお話だっていうから、もと吹奏楽部員だった自分としてはぜひ読まねば!と、勢い込んで読んでみたのですが、なんか…ちょっと期待はずれ。「てにをは」にあれ?っと思ったり、誰人称で話が進んでいるのかがさっぱりわからなかったり、読みにくかったというのもあるのかもしれませんが、そういう技術云々の話だけじゃなくて、全体的に…うーん、何というか。(自分の理解力を棚に上げてます。えらそうにスイマセン。)

確かに「吹奏楽部」というものについてはよく知っているのだろうなという書き方です。部活の体制とか、コンクールの仕組みとか、練習の仕方とか。でも、それはあくまでも外側から見た姿であって、その内側にいる中学生たちの姿を描ききれているかといったら、かなり物足りないなと思ってしまったのでした。テーマはいいのに、中途半端なのです。実際に今現役でがんばってる子たちがこれ読んだら、怒るんじゃないかな?くらい。

コンクールとか、練習とか、こんなんじゃなかった。私たちが感じていたのは、こんなことじゃなかった。もっと、必死だったし、一生懸命だったし、真剣だった。勝ち負けとかじゃんくて、音楽というものについて。吹奏楽にほんとうにほんとうに「青春」をかけていた私としては、ちょっと、かなり納得がいかなかったのでした。こんなに甘くない!間違いなく!!(全国大会の常連でこれ?ますますありえない!)

だって、私は今でも忘れていないのです、あの熱さを…!

と、思わず熱く語ってしまいましたが、(思い入れがあるのでつい…。)、まぁ、この小説では「中学生の心の成長」みたいのを描くための一つのツールとして吹奏楽部を使っただけで、あくまでもそれを通じて彼の姿を描きたかっただけで、別に熱い青春吹奏楽小説を書きたかったわけではないのかなぁと。そういう意味ではよく書けていると思いますし(またえらそう?)、子供というよりはむしろ親が読むといい小説なのかもしれないなぁと思いました。

そして、そう言いつつも、この続編の「うさぎとトランペット」をこれから読むのですが。だってトランペットだったし!私!

格闘する者に○

格闘する者に○

格闘する者に○

主人公、藤崎可南子は就職活動中の女子大生。「学生の間にがんばったことはマンガを読むこと」という彼女の希望先は出版社。それもあんまり熱心なほうではなく、なんとなーく、だらだーらと活動する日々。そんな彼女の悩みのネタは就職活動のみならず、家族のことでもあったりし…。

実は私はいわゆる「リクルートスーツを着た」就職活動をちゃんとしたことがほとんどないのですが、それでもこの可南子の物語には「うん、うん!」とうなずけること満載で、あまりのおもしろさに、ほんとうにあっという間に読み終わりました。

暴走しまくりの可南子の妄想に笑い、西園寺さんとの恋模様に泣き、とにかく彼女には翻弄されまくりです。読み始めたときは「なんだ!この女は!」と思っていたのですが、読み進めていくうちに、うっかりそんな彼女のとりこになってしまいました(笑)。彼女の周りの人々も、みんなどこか憎めなくて、なかなか。

三浦しをんさんの作品は「私が語り始めた彼は」しか読んだことがなかったので、これとのあまりのギャップにたまげました…!なんというか、これはそれこそ「マンガ」みたいな小説です。しかし、いろんなものの書ける作家さんなんだなぁと感心。(ちなみにこっちがデビュー作だそうです。)

そしてこのタイトル。「何?このヘンなタイトルは??」というモヤモヤは、読めばすっきり、拍手喝采です!うまいなぁ〜。

ハンサム・ガール

ハンサム・ガール (フォア文庫)

ハンサム・ガール (フォア文庫)

小学五年生の二葉の家族は「えらくヘンテコリン」。元プロ野球選手にして、現在は専業主夫のパパ。大阪に単身赴任中、バリバリのキャリアウーマンのママ。BFに夢中なお姉ちゃん…は、まぁ普通。そして野球が大好き!で、男の子ばっかりの野球チーム「アリゲーターズ」に入団希望の二葉。そんな二葉の毎日がいきいきと描かれた、まさに青春小説!です。

「男子」とか「女子」とか、そういう風に分かれてくるのって、そういえばこのくらいの頃だったなぁ…。なんだかなつかしい気持ちになりました。

そして、こんなふうに「自分の家が他の家と違う」っていうことを、なんだか恥ずかしく思っちゃう気持ちも、確かにあったなぁと思います。パパのこともママのことも大好きなのに、でも隠したくて、そんな自分がイヤで。二葉の葛藤する気持ち、よくわかります。そんな二葉を見守り、励まし、いつも味方でいてくれるパパとママ。うらやましくなっちゃうくらい、ステキな家族です!

なんかフツーじゃないけど、いいのよ、あれで。
やっとそう思えるようになったんだから。

そんな二葉に拍手!!がんばれ、女の子!